眼瞼ヘルペス(lid herpes)
眼瞼ヘルペスは眼瞼単純ヘルペスと眼部帯状疱疹ヘルペスに分類される。
1.眼瞼単純ヘルペス
眼瞼単純ヘルペスとは
初感染の大部分が乳幼児期で、そのほとんどは不顕性感染である。1~10%は顕性化し初感染像を示すため乳幼児に多い。眼瞼とその周囲の皮膚に臍窩を伴った小水疱を多数認める。眼部帯状疱疹と異なり、皮疹ができる場所は神経支配に一致しない。
耳前リンパ節腫脹、圧痛を伴う。初感染型では口内炎や口唇ヘルペスの合併や、発熱などの全身症状を伴うことが多いが、再発型では全身症状を伴わないことが多い。皮疹は乾燥して治癒していくが、ときに破れて糜爛(びらん)となる。その後1週間程度で自然治癒する。
眼瞼単純ヘルペスの診断
臨床像から比較的容易に診断可能だが、水疱内容の塗抹標本で以下の3点を確認すると診断を確実にすることが可能となる。
- ギムザ染色し多核巨細胞を証明すること
- 蛍光抗体法や酵素抗体法によりウイルス抗原の存在を証明すること
- PCR、特にリアルタイムPCRによりウイルスDNAを同定すること
※HSV1,2型の両方でなりうるが、1型の方が多い。
眼瞼単純ヘルペスの治療と予後
- アシクロビル眼軟膏を1日5回塗布し、症状に応じて漸減する
- ステロイド点眼薬は禁忌
- 混合感染を予防するため抗菌薬の眼軟膏あるいは点眼を1日3回塗布する
- 重篤ならアシクロビルもしくはバラシクロビル塩酸塩の点滴静注をする
- 多くの場合瘢痕を残さず治癒し、予後は良い。
2.眼部帯状疱疹とは
水痘帯状ヘルペスウイルス(以下、VZV)による感染症。VZVは50歳以上で特に高齢者や、糖尿病患者、担癌者、ステロイドや免疫抑制薬長期内服などの免疫機能低下例で認める。しかし、健康な人にも発症しうる。三叉神経第1枝の支配領域に好発する。
頭痛のほか神経痛様症状が先行したのち、正中線より片側の眼瞼、前頭部、頭部、鼻部に特有の発疹(浮腫性紅斑+小水疱が出現し集簇して帯状になる)が発症する。眼瞼腫脹や眼周囲の疼痛は強いことが多い。初感染型では口内炎や口唇ヘルペスの合併や、発熱などの全身症状を伴うことが多いが、再発型では全身症状を伴わないことが多い。
治癒過程は眼瞼単純ヘルペスと類似しており、最終的には痂疲化する。鼻背から鼻尖部にかけて発疹がある場合には、角膜炎、結膜炎など眼疾患合併に注意する(Hutchinsonの法則)。
眼部帯状疱疹の所見
急性期
- 上強膜炎またはびまん性強膜炎とともに角膜周辺部に浸潤性混濁
- 点状表層角膜炎、偽樹枝状角膜炎に伴う実質浮腫を認める
- 虹彩萎縮
- 発症2週後以後になると実質病変が主体となり、多発性角膜上皮混濁、上皮型角膜炎、実質型角膜炎、などを認める
回復期
一部に限局する結節性胸膜炎が残存、遷延化することがある。
その他にも結膜炎、上強膜炎、強膜炎、虹彩炎、眼筋麻痺、涙腺炎などがある。
眼部帯状疱疹の診断
上記臨床症状と血清によるウイルス抗体価が有用で、補体結合抗体価が32倍あるいは64倍以上と高値なら可能性が高い。
眼部帯状疱疹の治療
眼瞼単純ヘルペスと同様。眼部症状があれば加療を行う。上強膜炎、虹彩炎などを伴っていれば必要最小限のステロイド点眼薬も用いる。ただ、早期にやめると再燃する恐れもある。また、眼合併症は皮疹のピークよりも遅れて生じるため経過観察、あるいはその旨を説明する必要がある。
単純ヘルペス角結膜炎
原因はHSV-1>>>HSV-2であるが、臨床症状に差はない。単純ヘルペス結膜炎は初感染の場合にみられるが、アトピー素因を有する症例やカポジ水痘様発疹症に合併する場合などでは成人再活性化例もある。
初感染なら眼瞼に特徴的な皮疹を伴うが、再活性化例ではそうとは限らない。結膜炎は耳前リンパ節腫脹を伴う急性濾胞性結膜炎で、片眼性が多い。眼脂は線維素性からやや粘液性で、多くは眼瞼ヘルペスも伴う。病因診断はウイルス分離、PCRを行い、血清抗体価測定でIgMの上昇があれば初感染と診断できる。
鑑別としては流行性角結膜炎が挙げられる。流行性角結膜炎と比較して濾胞は小さいとされるが、鑑別は細隙灯顕微鏡所見では困難である。角膜病変を伴うことがヒントになることもある。治療は眼瞼ヘルペスに準ずる。
単純ヘルペス角膜炎
単純ヘルペス角膜炎の分類
単純ヘルペス角膜炎の病型分類(1次病変(基本型)→2次病変)
1.上皮型
樹枝状角膜炎or地図状角膜炎→遷延性角膜上皮欠損
初期は星状角膜炎だが、進行すると樹枝状角膜炎となり、さらに地図状へと変化する。2次病変で遷延性角膜上皮欠損となる。
※地図状角膜炎の潰瘍面は溝状陥凹が拡大して平面状になっている。その潰瘍病変の一部に樹枝状断端など、樹枝状角膜炎の特徴を有することがあり、地図状角膜炎診断のヒントになることがある。
2.実質型
円板状角膜炎or壊死性角膜炎→栄養障害性潰瘍
実質内に存在するウイルス抗原への免疫反応と考えられていて、角膜所見として抗原抗体反応による免疫輪を認めることがある。また、実質炎症例には虹彩炎、ぶどう膜炎、輪部炎などを合併する症例を認めることがある。
治療としては通常のヘルペス治療に加えて、免疫反応があるため、0.1%フルメトロン点眼液を用いる。壊死性角膜炎ではこれら薬剤を中止すると、再発することがあり、改善しても治療を継続する方が良い場合がある。
3.内皮型
角膜内皮炎
角膜内皮に限局した混濁やKPsを認め、二次的に角膜浮腫を伴うことがある。
アトピー性皮膚炎(AD)との関連
感染症を起こしやすいことも問題で、黄色ブドウ球菌とHSVが問題となる。ADには重症のヘルペス皮膚感染を生じることがあり、カポジ水痘様発疹(KVE)となる。ADでHSVが問題なる理由として、HSVに対する細胞性免疫不全、性状皮膚に比較してAD患者の皮膚ではHSVが増殖しやすいこと、手で掻くことで皮膚でのHSV感染を広げることが考えられる。
KVEでは眼表面にもHSVの感染が及ぶ可能性が高く、ヘルペス性角膜炎がKVEに合併することがある。また、AD患者は皮膚にHSV感染している、いないに関わらず、角膜ヘルペスを起こしやすいことが知られている。AD患者におけるヘルペス性角膜炎は両眼性が多く、主として上皮型で、再発が多く、上皮の修復が遅いために表層実質に瘢痕が残りやすいことが知られている。
水痘角膜炎
水痘罹患後数カ月を経て、片眼に円板状角膜炎の形で、角膜中央の浮腫と混濁を生じることがある。これを水痘角膜炎という。ステロイド点眼とアシクロビル眼軟膏で軽快するが、早期中止で再燃する恐れもある。
進行性網膜外層壊死(PORN)
『進行性網膜外層壊死(PORN)』を参考にしてください。
サイトメガロウイルス(CMV)による眼症状
1.先天性CMV感染症
先天性CMV感染症はCMVに感染することで生じるが、日本人の約9割前後は出生時の経産道感染とその後の水平感染により、成人までに不顕性初感染する。抗体陽性の母体から胎児に経胎盤感染する頻度は0.2~2.2%で、妊娠中に初感染するのは20~40%、そのうち5~10%が先天性CMV感染症となる。先天性CMV感染症は低出生体重児、肝脾腫など全身症状をきたすが、眼症状としては網脈絡膜炎が主症状となる。
初期の網脈絡膜炎は網膜後極部の血管走行に沿って滲出性の白色斑が出現する。ときに顆粒状の小滲出斑が周辺部に多発することもある。網脈絡膜炎が進行すると、白色病変は癒合し癒着する一方で、新たな滲出斑が出現することもある。末期の状態になると視神経萎縮や網膜剥離を生じることもある。この網脈絡膜炎の他に、無眼球、小眼球、乳頭形成異常、白内障を生じることもある。
診断は生後2~3週間以内の尿からウイルスが分離培養されると確定診断となる。その他にも、臍帯血や新生児血のCMV IgM、PCRによるDNA検出を用いることがある。治療には抗ウイルス薬(ガンシクロビルとホスカルネット)があり、重症例に用いるが、副作用もあるため確立した治療法はない。
ガンシクロビルの副作用:30~50%に白血球減少があり、長期使用例で耐性株が出現しうる。
ホスカルネットの副作用:ガンシクロビル耐性株にも有効だが、腎機能障害に注意する。
2.CMV網膜炎
免疫不全患者に両眼性に発症する。AIDSの重要な症状の一つだったが、HAARTの導入によりその頻度は減少している。眼局所においてはPCRによる前房や硝子体からのウイルスDNA検出が重要である。加えて、免疫不全を背景としている場合があるため、血清の抗CMV抗体価の上昇、血清のCMV抗原血症の証明などの全身的なウイルス検索も重要となる。治療は抗CMV薬である、ガンシクロビル、バルガンシクロビルの投与とともに、免疫不全の改善が必要だが、改善に伴い炎症が生じることもある。
参考文献
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